top of page

街に開かれたメタバース美術館を創る男の物語 ~小川敬禎さんの探求の旅~

ree

zenschoolには、自らの内なる声に耳を澄ませ、終わりなき探求の旅を続ける多くの先輩たちがいます。今回ご紹介する小川敬禎さんもその一人。彼が歩んできたユニークな道のりは、「歩んできた道のりに、無駄はない」というzenschoolの哲学を体現しています。

ここからは、ご本人の言葉で、その物語を綴っていただきます。

小川敬禎と申します。今振り返ってみると、私の人生は一見バラバラに見える体験が、ある一つの方向性に向かって結びついていく、不思議な物語だったように思います。


日常の中で芽生えた「なにか違う」という感覚

私は株式会社バウハウスでビルメンテナンス事業に従事していますが、そのなかで障害者就労支援に携わる機会がありました。清掃業務には高度な専門技術を要するものもあれば、障害のある方でも取り組めるルーティンワークもあり、私たちは後者を通じて障害者との協働を進めていました。


その日々のなかで、私は彼らが施設内で創作する素晴らしいアート作品に出会いました。色彩の豊かさ、独創的な発想、そして何より作品に込められた純粋な表現力。それらを目にするたび、私の心には言葉にできないもやもやが湧き上がってきました。


「これほど素晴らしい作品が、なぜ施設の中に埋もれているのだろう?」


その疑問は次第に確信に変わっていきました。これは非常にもったいない。もっと多くの人に見てもらうべきだ――。そんな思いから「街ごと美術館」というアートレンタル事業を立ち上げました。月額3000円でアートをレンタルし、そのうち500円を毎月作家に還元する仕組みです。新潟を中心に始まり、東京にも活動を広げました。


でも、正直に言うと、どこか物足りなさを感じていました。アートを物理的に貸し出すだけでは、本当の意味で「社会に開く」ことになっているのだろうか。そんな時、まったく別の出来事が私の人生を大きく変えることになります。


「遊び」から始まった新たな扉

コロナ禍が始まる少し前のことでした。友人の勧めでVRの世界に足を踏み入れたのです。最初は純粋に「遊び」でした。仮想空間で自由に動き回り、現実では不可能な体験をする――それはとても新鮮で楽しいものでした。


しかし、VRを体験しているうちに、ふと思ったのです。「これは自分の仕事でも活かせるんじゃないか?」と。その瞬間、私の中で何かがカチッと音を立てて繋がったような感覚がありました。


独学でVR技術の習得を始めました。どこかのスクールに通ったわけではありません。オンラインコミュニティに参加し、試行錯誤を重ねながら、360度カメラでの撮影技術、海外製アプリ「3Dビスタ」での編集技術を身につけていきました。制作する喜びを見出していくうちに、私の中で一つのビジョンが明確になってきました。


「VR技術と障害者アートを融合できれば、物理的な距離や時間の制約を超えて、より多くの人々にこの素晴らしい作品たちを届けられるのではないか?」


zenschoolで見つけた「本当の答え」

そんな時期に、私はzenschoolVR第4期に参加しました。メタバースの可能性について学びたい、という明確な目的がありました。


禅の考え方を取り入れたワークショップは、これまで体験したことのないものでした。特に印象に残っているのは、座禅の時間です。静寂の中で自分の内面と向き合っていると、それまで頭の中でぐるぐると回っていた思考が次第に整理されていくのを感じました。


「なぜ私は障害者アートに惹かれるのだろう?」 「VRという技術に、本当は何を求めているのだろう?」


三木さんや他の参加者との対話を通じて、私は自分が求めていた本当の答えに辿り着きました。それは「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)」でした。多様な働き方があっていいんだよ、という考え方。そして、VRやメタバースは、これまで社会と接点を持ちにくかった人々が、アバターを通じて自分を解放し、平等に機会を得られる分野になるのではないか――そんなビジョンが、ワークショップを通じて明確になっていったのです。


「VR美術館」という新たな表現

zenschoolでの学びと仲間たちからのアドバイスを受けて、私は「VR美術館」の制作に本格的に取り組み始めました。


最初の大きなプロジェクトは、モスバーガー新宿新店舗でのVR美術館でした。360度カメラで店舗を撮影し、3Dビスタで編集することで、単なるバーチャル空間を超えた体験を創り上げました。音声ガイドはもちろん、AR技術を使って作品が動いたり、作家の制作過程を映した動画を組み込んだり。物理的な制約を超えて、アートに「命」を吹き込むことができたのです。


この取り組みは新聞やメディアにも多数取り上げられ、大きな反響を呼びました。セコム上信越の新潟本社でも同様のプロジェクトを手がけ、こちらも日経新聞で紹介されました。


VR美術館を制作するなかで、私は確信しました。これは単なる技術的な革新ではない。埋もれてしまうにはもったいない才能を、より多くの人々に、ひいては海外にも発信できる可能性がある。時間や場所の制約を超えて、好きなだけ作品を鑑賞できる。そして何より、アーティストと鑑賞者の間に、新しい形の対話を生み出すことができる――。


今も続く、終わりなき探求の旅

現在、私の活動はさらに広がりを見せています。VR美術館の制作に加えて、企業研修やリクルート向けの会社案内VRツアーなど、様々な分野でVR技術を活用した取り組みを進めています。


そして最近では、NFTを活用したデジタルアートの展開も視野に入れ始めました。もちろん、様々な施設や作家の皆さんの理解を得るための課題もあります。「食い物にしている」と見られないよう、慎重かつ丁寧に動く必要があるというデリケートな側面もあります。


でも、私が最も大切にしているのは、VRを通じた「多様な働き方の創出」です。病気で寝たきりになってしまった人、引きこもりの方、様々な理由で社会との接点を持ちにくい人々が、アバターを通してVRの世界で活躍できる未来。それが私の描く理想です。


教育現場への導入も検討しています。全国の障害者だけでなく、アート活動をしている人々とメタバースを通じて接点を増やしていきたい。そして最終的には、人々がアートを鑑賞しながら交流し、NFTを活用したアートの売買まで実現できる、そんな場を創りたいと考えています。


あなた自身の「川の流れ」を見つめてみませんか?

私の活動を振り返ってみると、まるで川の流れのようだと感じます。最初は細い一本の筋から始まった個人的な興味が、次第に支流を増やしながら大きな川となり、やがて広大な平野を潤していく――。


ビルメンテナンスの仕事で障害者アートに出会い、友人に勧められてVRの世界に触れ、zenschoolで自分の内面と向き合い、そしてVR美術館という新しい表現にたどり着く。一見バラバラに見えた体験が、今になってみると全て繋がっていたのです。

私たちの人生には、無駄な体験など一つもない。そのことを、私は身をもって実感しています。


あなたの人生にも、きっと独自の「川の流れ」があるはずです。今は細い支流に見えるかもしれない体験や出会いが、いつか大きな流れとなって、あなた自身が想像もしなかった場所へと導いてくれるかもしれません。


今のあなたが大切にしている価値観や、心の奥で感じている「もやもや」は、どのような可能性を秘めているのでしょうか?

コメント


bottom of page