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ひとりでも、月に届く

更新日:2 日前

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震災の日に決断した脱サラから、日本初の民間月面探査成功まで

中島紳一郎さん

株式会社ダイモン

代表取締役CEO

zenschool 17期卒業生


ひとりの人間として、宇宙に挑む

2025年3月7日の夜明け前、世界が眠る中で歴史が作られました。中島紳一郎さんが一人で設計・開発した月面探査車「YAOKI」が、米国の月着陸船と共に月面に到達。日本の民間企業として初めて月面で撮影に成功したのです。


手のひらに乗るほど小さな498gのロボットに込められたのは、一人のエンジニアの14年間の歩みと、「ひとりでもできる」という信念でした。


すべての転機は「その日」から始まった

2011年3月11日 - 運命を変えた一日


出張の帰り道、電車の中で東日本大震災に遭遇。歩いて帰る道すがら、大手自動車部品メーカーでの20年のキャリアを捨てる決断を下しました。「もう自動車の開発をやっている場合じゃない」という直感が、すべての始まりでした。


2012年 - 株式会社ダイモン設立

善光寺の境内で育った中島さんが選んだ社名「ダイモン」。善光寺に存在しない「第一の門(大門)」を自分が作ろうという想いを込めて。ハローワークの失業保険の期限と共に起業への道を歩み始めました。


2017年 - zenschool参加

起業から5年、技術的な蓄積はあっても「これでいいのか?」という迷いが。zenschoolでの7ヶ月間の対話を通じて、自分の中にある「本当にやりたいこと」と向き合う時間を過ごしました。


2018年 - 「脳内爆発」とYAOKI誕生

zenschool修了後の夏、中島さんに「脳内爆発」が起こります。「激しい怒り(rage)」と表現するその感情は、ネガティブな怒りではなく「芸術は爆発だ」という岡本太郎の言葉に近い、創造への衝動でした。ここからYAOKIの設計が始まります。


2019年 - NASA契約獲得

米Astrobotic社を通じて、NASAの月輸送ミッション「CLPS」への参加が決定。一人のエンジニアが設計した月面探査車が、世界最大の宇宙機関に認められた瞬間でした。


2025年3月7日 - 月面到達・撮影成功

着陸船の横転というトラブルの中でも、YAOKIは月面から画像の送信に成功。「七転び八起き」の名前の通り、困難な状況でも諦めない姿勢を体現しました。


中島さんの言葉

「私の場合は技術開発。人の手を借りずに、電子、通信、カメラ、無線、筐体、電気モーター、全部自分で作った。モノづくりは次の瞬間セクショナリズムになって無駄ができる。自分1人でモノが作れてしまうと、納得もいくので、ギリギリまで詰める設計ができるんです。」 ― 中島紳一郎さん(2019年インタビューより)

YAOKI が教えてくれること

YAOKI の仕様

  • 重量: 498g

  • サイズ: 15×15×10cm

  • 試作回数: 200機以上

  • 開発期間: 14年


YAOKIの小ささは、制約の中で最大の価値を生み出す日本のモノづくりの真髄を表しています。月への輸送費1kg当たり1億円という制約の中で、必要な機能だけに絞り込み、無駄を一切削ぎ落とす。


200回を超える試作と改良。一人でメカ、電気、ソフトのすべてを手がけることで、部署間の調整という「無駄」を排除し、ギリギリまで詰めた設計を実現しました。


zenschoolでの「問い」

「起業して5年目、技術的な蓄積はあるけれど、これでいいのか?」


そんな迷いを抱えてzenschoolの門を叩いた中島さん。7ヶ月間の対話を通じて見えてきたのは、自分の中にある「本当にやりたいこと」への確信でした。プログラム修了から1年後に起こった「脳内爆発」。それは、自分の内側にあった情熱が、ついに形を求めて表に現れた瞬間だったのかもしれません。


今、そしてこれから

YAOKIの月面到達は、ゴールではありませんでした。中島さんの夢は、100機のYAOKIを月面で走らせ、地球から誰でも月面旅行を体験できるアバターロボットシステムを作ること。

一人のエンジニアが始めた挑戦は、やがて多くの人々に宇宙への扉を開く「インフラ」となるのです。


歩んできた道のりに、無駄はない

20年間の自動車開発経験。震災の日の突然の決断。失業保険と共に始まった起業。Google Lunar XPRIZEでの経験。zenschoolでの内省。そして「脳内爆発」から生まれたYAOKI。

一見すると迂回路に見える道のりも、振り返ってみれば一つの線で繋がっています。自動車の駆動系開発で培った機械設計の技術、起業で学んだ一人でやり切る力、zenschoolで見つめ直した自分の内なる声。


中島さんの物語は、私たちに教えてくれます。今、迷いの中にいても、歩み続けている限り、その道のりは必ず意味を持つのだと。


「歩んできた道のりに、無駄はない。」 ― zenschoolのメッセージ

株式会社ダイモン代表取締役CEO:中島紳一郎事業内容:ロボット・宇宙開発設立:2012年2月11日


参考リンク


この記事は2025年3月の月面探査成功を受けて更新されました。

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