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基板は美しい。その発見が未来を繋げた - 加藤木一明さんの物語

更新日:2 日前

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脆弱性を受け入れることから始まった探求

「このままでいいのか?」


2011年、東日本大震災の余波で月商がゼロになった時、加藤木一明さんはそう自分に問いかけていました。有限会社ケイ・ピー・ディの代表として、プリント基板設計一筋で歩んできた道に、深い迷いが生じていたのです。


「リーマンショック、東日本大震災、タイの洪水…年間で7〜8割売上が減る状況でした」

そんな時、異業種交流会で知り合った江田さんから「面白い考え方があるよ」と紹介されたのが、「マイクロモノづくり」というキーワード。半信半疑でzenschoolの前身である「マイクロモノづくり経営革新講座」の扉を叩いたのが、加藤木さんの新しい探求の始まりでした。


「自社商品」という未知の領域へ

それまで加藤木さんにとって「自社商品」という概念は存在しませんでした。17年間、お客様の回路図を美しい基板に具現化することが仕事のすべて。基板設計は「10人いたら10人とも違う絵になる」アートのような世界で、その繊細な配線パターンに魂を込めてきました。


「基板設計って、夢に出てくるんですよ。『あ、こうすればいいんだ』って夢の中でできちゃったりして、すぐ事務所に行って確かめる。それくらい夢中だった」


しかし講座での問いは違っていました。あなたは何を創りたいのか?


「他の経営セミナーは理念が大事だと言うけれど、どうやって作ればいいかは教えてくれない。enmonoさんのセミナーは違った。実際に手を動かして、モノを作ってみる。搾り出すような体験でした」


「基板は美しい」という発見

苦しみながら生み出されたのが、プリント基板をアクセサリーに昇華させた「Healing Leaf」でした。最初はLEDを光らせる電子工作を想定していた加藤木さんでしたが、デザインフェスタでの出展で意外な発見をします。


「お客さんが注目したのは、光る機能ではなく、基板そのものの美しさだったんです」


基板の繊細な配線パターンを「葉脈」に見立てたペンダントは、瞬く間に完売。それは加藤木さんにとって、17年間当たり前に見てきた基板の「新しい可能性」との出会いでした。


クラウドファンディングという試練と気づき

2013年、Healing Leafのクラウドファンディングに挑戦。「楽しかったけれど、ツラかった」と振り返るこの体験が、加藤木さんの人生を大きく変えました。


「お尻を決めて、できることは何か、できないことは何かを明確にする。できないことはどこかに頼もうと割り切れるようになった」


そして振り返った時、自分がやっていることの本質が見えました。


「プリント基板の可能性を拡げて未来に繋げる」


経営セミナーでは生み出せなかった企業理念が、実体験を通して自然と湧き上がってきたのです。


大学との出会いが開いた新たな扉

2016年、東京理科大学葛飾キャンパスのインキュベーションルームに研究室を開設。大学との共同研究という新しい挑戦が始まりました。これは単なる事業拡大ではなく、基板設計という職人技を次世代に継承したいという想いの表れでもありました。


「基板設計者は今、40代50代が中心。若い人がいない。この技術を未来に繋げなければ」


2022年には、東京ビジネスデザインアワードで最優秀賞を受賞。「半田付け不要の基板ジョイント導通技術」という技術革新が、新しい形で評価されました。


現在進行形の探求

現在、加藤木さんの会社は5名体制に成長。売上は最低だった時期の4倍に。しかし彼は「安心はしていない」と言います。


「基板を絡めたモノづくりを続けること。それが私たちの未来への道筋です」


基板アートの手ぬぐいやTシャツを通じて基板の美しさを伝え、若い世代に興味を持ってもらう活動。それも「未来に繋げる」理念の実践です。


あなたの中にある「可能性」への問いかけ

加藤木さんの歩みを通して見えてくるのは、*「専門技術を持つ人こそ、その枠を超えた探求が必要な時代」*ということかもしれません。


17年間、基板設計の技術を磨き続けてきた加藤木さんが「自社商品」という概念と出会った時、既存の枠組みを超えた新しい価値が生まれました。それは単なるビジネス拡大ではなく、自分の技術に込めてきた「愛」を、より多くの人に伝える方法の発見でした。


もしかすると、あなたの中にも眠っている「可能性」があるのではないでしょうか?


普段当たり前に行っている仕事の中に、まだ誰も気づいていない美しさや価値が隠されているかもしれません。


加藤木さんは今も、基板の配線パターンと向き合いながら、新しい「問い」を探し続けています。その探求に終わりはありません。なぜなら、それこそが彼にとっての「いきがい」そのものだからです。


この物語は、2016年のインタビューと現在の活動状況をもとに構成されています。加藤木さんの探求の旅は今も続いています。

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