

富山県高岡市の金属金型メーカー、株式会社フジタ。代表取締役の梶川貴子さんは、事業承継後の厳しい状況の中、会社の未来を模索していました。「一体、何屋さんなのですか?」 外から見えにくい自社の価値、町工場へのネガティブなイメージ…。多くのセミナーに参加しても、突破口は見えませんでした。そんな彼女が出会ったのがZenschool。マインドフルネスと対話の中で、梶川さんは自身の中に眠る「美意識」を再発見します。その気づきは「美術館のような工場を創りたい」という、誰も想像しなかったアイデアへ繋がり、前代未聞のメタルアート専門美術館「FACTORY ART MUSEUM TOYAMA」設立へと結実しました。これは 、一人のリーダーの内なる声が、会社と地域に新たな地平を切り拓いた物語です。
1. 閉塞感を打ち破りたくて
アパレル業界を経て、父が創業した株式会社フジタへ。現場作業から設計、IT化推進まで幅広く経験し、2010年に4代目社長に就任しました。しかし、待っていたのは厳しい現実。主要取引先の海外移転で売上は激減し、会社の存在意義すら見失いかけていました。「暗い」「汚い」「うるさい」…そんな町工場のイメージも変えたい。けれど、何をどうすれば良いのか分からない。様々な経営セミナーに参加するも、「行儀の良い」学びでは心は動きませんでした。「このままではいけない」という焦りだけが募る日々。約6年間、変化を求めてもがき続けていました。

2. 型破りなZenschoolとの出会い
転機は2015年。以前からFacebookで見かけていたZenschoolの活動。世界コマ大戦の会場でenmonoのインターン生に声をかけられたのがきっかけでした。後日、第10期の発表会を見学し、衝撃を受けます。着ぐるみ姿の参加者、筋肉アピール…。「何これ?!」今まで見てきたビジネスプレゼンとは全く違う、自由で、本気のエネルギーに圧倒されました。製品開発のヒントを求めていたけれど、「成果物はモノじゃなくてもいいんだ」と知り、なぜかホッとしたのを覚えています。多くのセミナーで変われなかった自分。「ここでダメでもいいじゃないか」。半ば開き直りのような気持ちで、Zenschool第11期の扉を叩きました。

3. 「私には美意識があったんだ」内なる声の覚醒
Zenschoolのプログラムは、知識を学ぶ場ではありませんでした。マインドフルネス瞑想や、安心できる場での対話を通じて、徹底的に自分と向き合う時間。「本当にやりたいことは何なのか?」を探求する中で、心の奥底にしまい込んでいた感覚が蘇ってきました。それは、アパレル時代に培い、心のどこかでずっと大切にしていた「美的感覚」。町工場の経営者として、いつの間にか蓋をしていた感情でした。「そうか、私には美意識があったんだ」。この気づきは、まさに「アハ体験」。そして、点と点が繋がりました。美しいものへの憧れ、町工場のイメージを変えたい想い、そして自社の技術。「そうだ、美術館のような工場を創ろう」。それは具体的な製品ではなく、空間そのものを創造するという、自分の中から湧き上がってきた、純粋な衝動でした。

4. アイデアを形に。前代未聞の「工場美術館」FAMT誕生
「美術館のような工場」というコンセプトは、単なる夢物語では終わりませんでした。まず、富山の伝統工芸・井波彫刻の欄間を、自社のアルミ削り出し技術で再現したメタルアート作品を制作。これが「ガイアの夜明け」で取り上げられ、大きな反響を呼びます。「これだ!」と確信し、自社工場の一角に本物の美術館を建設することを決意。目指したのは「現場クリエイターの技 モノづくりアートが光るミュージアム」。日々金属と向き合う職人たちの技術そのものをアートとして展示する、世界にも類を見ない美術館です。資金調達にはクラウドファンディングを活用。全国から多くの共感と支援が集まり、2017年春、「FACTORY ART MUSEUM TOYAMA(FAMT)」は、高岡市の工業団地に産声をあげました。

5. 変化は、続く。リーダーとして、地域と共に
ZenschoolとFAMT設立は、私自身と会社に大きな変化をもたらしました。「やりたいこと」を起点に行動するスタイルへ。社員には「何があっても自分で食べていける人に」という想いから、多能工育成や「哲学カフェ」開催などを通じて、自律的な成長を支援しています。FAMTは、当初想像もしなかった人々(デザイナー、学生、観光客な ど)を呼び込み、新たな出会いと繋がりを生むコミュニティハブになりました。「想像の斜め上を行くことが起きすぎている」と、自分でも驚くほどです。メディア取材や講演依頼も増え、町工場のイメージは確実に変わり始めています。そして今、私は「zenschool富山マスター」として、この場所で自身の経験を地域に還元する活動も始めています。変革はまだ、始まったばかりです。

6. 自分の「好 き」を信じる力が未来を拓く
もし、あの時Zenschoolと出会っていなければ。もし、自分の中の「美意識」という声を無視していたら。今のフジタも、FAMTも、そして私自身も、全く違う姿だったでしょう。常識や「こうあるべき」に縛られず、自分の内なる声、心の底から「好き」「やりたい」と感じることを信じる。その情熱こそが、想像を超える未来を創り出す原動力になる。私の経験が、変化を求める誰かの、小さな勇気に繋がれば嬉しいです。

梶川さんが取材されたガイアの夜明け

2016年1月19日(火)放送 第699回 ガイアの夜明け「崖っぷち"町工場"の逆襲!」にて梶川さんが紹介されました!
番組名 : 日経スペシャル「ガイアの夜明け」
タイトル: 第699回 崖っぷち"町工場"の逆襲!
放送局 : テレビ東京
放映日時: 2016年1月19日(火)22時~22時50分
出演者 : 江口洋介(案内人)